2014年 第6回かながわ新聞感想文コンクール

中学3年生の部 最優秀賞

僕は旅する
神奈川県立相模原中等教育学校
薄木 響志朗

「勉強は終わったの?」
母の声が響く。
「今やってるところだよ。新聞の感想文。」
母は僕の様子を見に来る。だいたいのことには適当なくせに、勉強だけにはうるさいのだ。
「どんな記事にした?」
「これこれ。銅剣の記事だよ。」
「へえ、タイムマシンがあったらその様子が見られるのにね。」
母のタイムマシンの説明を半分聞き流しながら、僕はこの銅剣の型が作られた時代について考える。弥生時代、この型のもととなる剣は、どのようにして日本へやってきたのだろう。どのような人が運んできたのだろう。東アジア各地から出土した剣は、よく似ているが全く同じではない。この時代には剣とともに鋳造技術や人も、大陸から渡ってきたのだろう。その技術やデザインがどこから、どのように来たものか想像することは本当におもしろい。このような鋳型から何本も剣が作られ、使われていたのだろう。ムラ同士の争いに使われていたのかもしれない。それとも祈りに使われたものなのか。新聞は過去のまだよく分からない部分を教えてくれるタイムマシンになる。
未だに解明されていない歴史にも興味があるが、こんなiPS細胞の記事も気になる。目への移植手術が実用化されれば、すばらしいことだ。僕の祖母は晩年には視力が衰えてしまい、好きな新聞を読むことも難しくなった。そのような人が、救われれば、どんなにかうれしいだろう。命にかかわる病気ではないが、視力を維持するということは、その人の生活の質にかかわる大きな問題だ。また、iPS細胞はどんな細胞にもなれるというから、「治らない病気はない」と言われる時代が来るかもしれない。数年先の未来には、その技術によってどんな世界がひらけているだろうか。新聞の記事を読むと、暗い気持ちになることもあるけれど、明るい未来も見えてくるのではないか。
母のタイムマシンの説明が一通り終わったようなので、僕も少し反論してみる。
「タイムマシンぐらい知ってるよ。ドラえもんにも出てくるし。」
「あー、でも、あれ、少しおかしいよね。いつも同じような未来に行き来しているよ。」
こう言って母は「親殺しのパラドックス」を説明してくれた。タイムマシンの発明者が過去に戻って、自分の親を殺すことにより生じる矛盾だ。
「あっ。つまり未来は確定していない?」と言うと、母は「そう。未来は現在によって変化するってことだね。」と答えた。
新聞がこの地球上で起こっている様々なことを伝えてくれるのは当然だが、新聞タイムマシンに乗れば解明されていない過去を見ることできる。数年先、起こるかもしれないことを見せてくれる。そして、さらにその先の自分の未来も想像させてくれる。
自分の将来はどんなだろう。前例のない古墳を発掘する考古学者はどうだろう。それとも、医学の発展に貢献する研究者か。天文学者になって宇宙人とファーストコンタクトするというのもすてきだ。いつか宇宙人と僕が握手している写真が新聞に載るかもしれない。僕の未来はまだ確定していない。いろいろな可能性がある。
「早く勉強すましちゃいなさいよ。」
母はそう言いながら、家事にもどっていった。
「うん。」
返事はしたが、僕はもう少しの間、新聞タイムマシンで過去へ、未来へ、旅をしよう。

課題(1)
(朝日新聞 6月27日付)「柄の先に二つの輪 短剣鋳型」
(朝日新聞 8月9日付)「iPS細胞、初の臨床」

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