2014年 第6回かながわ新聞感想文コンクール

中学3年生の部 最優秀賞

ドッグイアーは忘れずに
川崎市立高津中学校 三年 浅野 愛子

 今日の出逢いはジャック・ホーナー。ジュラシックパークのモデルにもなった恐竜学者。読字障害のため、読み書きの能力は小学三年生程度。にもかかわらず、過去の文献に頼らず研究に励み、今までの恐竜観を覆す数々の発見をした。自分の弱さを直視し、困難を困難のままにせず、別の角度から自分の可能性を最大限に広げていく。「大切なのはオープンマインド、心を開くことだ。」と言いきる彼の生き方からは、背負った障害をハンデにするどころか、むしろ逆手にとって価値を生み出す逞しさまでもが伝わってくる。その人生には、微塵の言い訳も感じられない。次々に常識の壁を破っていく彼の世界にあっという間にひきこまれた。

 袖振り合うも多生の縁、という言葉があるが、新聞は、普通に生きているだけでは決して「振り合う」機会のない人との縁も、毎日私にもたらしてくれる。紙面を通じて伝わる等身大の人物像、人生観、さらには、言葉と言葉の間から読み手に委ねられた見えないメッセージ…それをどこまで受けとめることができるか、自分の心に刻むことができるか、日々そんな一期一会にわくわくしながらそっとページをめくっている。

 今は、インターネットで気になる人物を簡単に詳しく調べることができる時代だ。でも、私にとっては、予想外の出逢いも待っている新聞の方が何百倍も面白い。紙面上で待ちかまえるのは、目的としていた「主役」だけではない。思いがけない「脇役」の輝きが、心を捕えて離さなくなることもあるのだ。

 例えば、フンボルトペンギン。一度つがいになると二十年以上も連れ添い、子育てを終えた老後も夫婦で暮らす。その一途さは、とても動物とは思えない。そして、またある時は、コモンマーモセット。父親をはじめ兄姉も赤ちゃんの面倒を見て、全力で母親をサポートする。しかも、手に入れた食べ物を分け合うという、動物では珍しい利他行為もみられるとか。その優しさはもはや人間を越えているかもしれない。そんな動物達の行動に、秘かに感動し、魅了され、尊敬の念を抱く。ジャックホーナーはもちろん偉大だが、フンボルトベンギンだって、コモンマーセットだって負けず劣らず素晴らしいではないか。名脇役達の世界にしばしひたってしまう。

 新聞での出逢いは、時にはこのように「種族」も越える。ましてや「国境」などは、いとも簡単に越えられるし、「時空」という、現実の世界では越えることが不可能なものまで、楽々と越えることが可能だ。そう、新聞での出逢いはどこまでも果てしなく無限大で、その限りない未知数の縁をどれだけ拾うことができるかは、私達読み手の受けとめる力にかかっている。

 明日出逢えるのは、一体誰だろう。過去の人か、今の人か、いやいやそもそも人間なのか、動物なのか、もしかしたら、今まで出逢ったことのない全く知らない「初めての何か」なのかもしれない。

 今日の一期一会に感謝して、明日の新しい出逢いを期待しながら、今日も私は静かに新聞をとじる。そうそう、後でスクラップブックにはるために、ドッグイアーの印つけだけは忘れずに…。

課題(1)(神奈川新聞 7月22日付)
「心を開き常識の壁破れ」
(東京新聞6月2日、7月28日付)
「カワイイ! 動物事典」

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