セミナー

NIE公開セミナー議事録 2016年11月12日

「新聞使ってアクティブ・ラーニング 〜学校図書館と連携として〜 」

記録者
秋岡祐樹(横浜国大修士1年)

あいさつ

神奈川県NIE推進協議会会長 赤池 幹

 毎年11月はNIE月間である。今回の公開セミナーは、学校図書館と学校司書の役割をひとつのテーマとして企画した。個人的には、学校図書館の位置付けは学校教育の根幹に関わると考えている。学校図書館には様々な智が集積されていて、そこで活動する学校司書の役割は、非常に意義あるものである。最近、文科省もやっとそのことに気づき、予算が下りるようになってきた。

 今度の学習指導要領では、「社会に開かれた教育」が謳われている。アクティブ・ラーニングはそのひとつの手段である。「社会に開かれた教育」とは何であるかということを、ぜひ皆様にも考えていただきたい。

基調講演

「ため」のある学びづくり〜学校図書館と教室

神奈川県NIE推進協議会副会長(横浜国大教授) 重松 克也

 
・戦後稀にみる急ピッチで学習指導要領の改訂が行われている。
・文科省や中教審が打ち出している方向性を軸にお話したい。
・何ができるようになるか、何を学ぶか、どのように学ぶか
→主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点から
・アクティブ・ラーニングそのものではなく、アクティブ・ラーニングの視点から、主体的・対話的な学びを実現させていくという枠組み。
・子どもたちが調べたりグループ活動をすることが重視されてくるため、当然、学校図書館の機能を充実させることが重要になってくる。
・アクティブ・ラーニングとは何なのか?
・認知プロセスを外に向けてプレゼンテーションしていく
・思考
→感性や感情はどこにあるのか?
・アクティブ・ラーニングを取り入れた実践をみると、考えたというより、どのように解き方を教え合うかという話し合いになっていることが多い。
・メタ認知的な要素がふえてくるのではないか。
→情報が機械的に処理されていく。
・総じて、子どもも教師も、忙しい(せわしい)調べ学習、探求学習が横行しそうである。
・学習指導要領は、学校図書館に@児童が自ら学ぶ学習・情報センターと、A豊かな感性や情操を育む読書センターとしての機能を期待している。
→NIEは、このふたつを架橋してくれるのではないだろうか。そして、前述してきたような効率の良い勉強では育ちづらい、底力のようなものを、育てるのではないだろうか。
・学校図書館は、情報のデータベースだけではなく、子どもたちの居場所であったり、他者や社会に開かれている拠点であってほしい。
→NIEはまさにそのような教材である。
・そのような「ため」のある空間が、子どもたちの裾野の広い学力を育むのではないだろうか

*以下、報告における項目は当日配布のレジュメに記載されたものです。

横浜市の図書館政策

横浜市の学校図書館教育 〜司書教諭等と学校司書の協働を考える〜

横浜市教育委員会指導企画課主任指導主事 丹羽 正昇

1.横浜市が目指す学校図書館教育
・多くの新聞に、学校図書館教育の取り組みの情報が紹介されている。
・横浜市の学校司書配置は、10割である。
・横浜市では、学校教育目標の具現化のために、学校図書館教育が位置づけられている。
→「知徳体公開」
→学習センター・情報センターとしての機能
→学校図書館指導計画の作成
・4つのツール
・子どもたちの確かな学力の向上のために、学校図書館教育を役立てていると、市は発信している。
 
2.横浜市の学校司書配置事業
・横浜市は、平成28年4月に、学校司書の全校配置を達成した。
・市の教育予算から、6億円をこの事業に割り当てている。
・司書教諭の人材育成に力を入れている。
・学校図書館における貸出冊数は、軒並み増加している。
・学校図書館蔵書の学校間における相互貸借へ向けた取り組みを行っている。
 
3.司書教諭等との協働に基づく学校司書の職務
・(学校司書の業務例として)新聞記事の、記事内容によるデータベース化
・授業における教員と司書の連携・協働
・自分の力で考えようとする子どもを、司書がその専門性を活かして、支えていく。
・国の方針として、学校司書と、地域の図書館司書との明確な差分化が示されている。
→教育という仕事に携わるという、専門性が、打ち出されている。

報告と提案@

横浜市緑園東小学校 校長 副島 江理子

これまでの取り組みから
・新聞が「問題解決学習」に発展していくという実感。
→子どもたちの考えが、NIEを通して、「自分にできること」へと発展していった。
→私にとって、非常に価値のある発展であった。
・学級だけでは、NIEが行える環境を活かしきれていない。
→学校全体としての取り組みが必要である。
 
実践校の実際
・塾や習い事に通っている児童が多い。
→子どもたちは能力が高く、何でもできるが、全て大人に与えてもらっていることに、何の疑いも持っていない。
⇒「よりよい自分、よりよい仲間づくり」「自分で自ら」子どもたちが主体的に取り組むことを重視した。
・「自分の想いを持ち、自分の力で積極的に学び続ける子を育てる」という目標のもと、読解力、情報活用力、問題解決力を育てる取り組みを行っている。
 
学校図書館・学校司書とNIE
・学校司書配置当初より、新聞活用をお願いして取り組んでもらっている
・平成26年度のNIE指定校になり、学校司書と連携した学習活動を開始した。
→1人が全ての教科を教えなければいけない小学校において、まさに「痒いところに手が届く」連携となり、先生方にとって、非常に有意義なものとなった。
 
取り組みの具体例と成果
・授業で扱うテーマに対して、本と新聞記事を同時に紹介するようにした。
→多面的多角的な情報に触れることができ、学習を広げ、深めていくきっかけとなった。
・新聞を作るという視点からの学習活動も行った。
→表現方法としても新聞が有効であると、子どもたちが気がついた。
・授業内容に特化した記事が多いという特性を活かして、子ども新聞も授業で有効活用している。
 
NIEの有効性
・授業の単元に関する新聞記事を、学習のねらいにそって、多面的に収集することができる。
・他の資料と併せて紹介することで、子どもの課題に合わせた資料収集ができる。
・子ども自身が、新聞を読んで新たに課題意識を持ったり、自分に合った資料を探すことができる。

報告と提案A

大和市教委学校図書館スーパーバイザー 守屋 明美

1.学校図書館と図書資料
・大和市では、市で予算をとり、全ての学校に新聞が入っている。
・学校図書館を構成するものとして、文科省は、「時事に関する情報及び参考資料」にも言及している。
⇒国の方針からすれば、大和市の方が普通であるといってもよいだろう。
・今夏は、情報ファイルについての研修を行った。
 
2.大和市の学校図書館における新聞の活用
・市が予算化して全市立小学校・中学校に新聞をおいている。
・学校図書館担当職員の研修に、新聞活用の講義を設けている。
・学校司書の初任者研修、情報ファイルの作成
 
@新聞コーナーの設置
・日付、新聞社ごと、学校司書が整理している。
・地域のスポーツ欄など子どもの関心をひきそうな記事には、付箋が入っていたりする。
 
A記事の切り抜き(情報ファイル化)
・項目を設定し記事をファイルする。
・同じ項目で収集して保管する。
・小学生新聞、中高生新聞も活用している。
 
B記事の活用
・学校司書が新聞を情報ファイル化しても、先生があまり活用していないようにみえる。
→先生だけでなく、児童・生徒にも開かれた状態にしておけば良いのではないだろうか。
→雑誌や書評(と紹介されている本)、連載記事も併せて子どもに紹介するのも良いだろう。
 
3.収集した情報ファイルの活用
・学習の場で活用するために情報ファイルを収集する。
・学習の単元を意識するために項目を設定する。
・授業をする先生たちがいかに情報ファイルや新聞を活用するか、また、学校司書がいかに学習に使える情報を新聞から収集できるか。
→両者がしっかりと連携して、学校司書に適切な指示がなされれば、学校司書は動きやすい。

報告と提案B

神奈川県NIEアドバイザー(学芸大学講師) 村山 正子

はじめに
・学芸大では、1年次に「学校図書館入門」という科目が設置されている。
 
1.NIEと学校図書館の認識のずれ
・図書館に求められている役割
→読書センター、学習センター、情報センター
・全国大会実践報告の分析
 
@新聞のつくり
 
A新聞づくり
 
B教師の与えた新聞記事で学ぶ
 
C子どもが自分で記事を探してきて使う
→NIEではBが、SLA(全国学校図書館協議会)では@やCが多い。
・NIEの報告は、以前は圧倒的に中学校が多かったが、近年、小学校も増えてきた。
・目標の違い
 SLA…情報メディアの特性を教え、それを活用する姿勢を育てる。
 NIE…新聞を教材としてとらえる。
・SLAにとって新聞は、いくつかある材料のうちのひとつであり、片やNIEは、その中で新聞に特化して研究している。
⇒学校図書館にとっては、あくまで「新聞も」である。この「も」を、双方とも大事にして欲しい。
 
2.考察
・学校図書館が新聞活用に力を入れすぎると、図書館の良さが消えてしまう。
・NIEも、教師が子どもに与えるという構図だけでなく、子どもが主体的に活用する姿にもっと着目すべきである。そしてそこに、新聞以外の本などがあると、尚良いであろう。

まとめ

神奈川県NIE推進協議会顧問(横浜国大名誉教授) 影山 清四郎

 資質・能力・ALなど、最近の教育の言葉が、私には全然頭に入ってこない。耳を誰かに引っ張られているような感覚であるが、身体は動かない。耳なし芳一ではないが、耳がちぎれてしまわぬよう、「お経」をちゃんと忘れずに書いておかねばならない。そうすれば子どもたちも私たちも、自分を失わず、生きていけるだろう。

 ではその「お経」を書いてくれるのは誰か。私は、司書の方や関係する先生方であると思う。ではその「お経」とは何か。(NIEと言うと身も蓋もないので、)「新聞」ではないだろうか。

 新聞を媒介として、(カリキュラムマネジメントといってもよいが、)子どもと先生方を生きた教材で繋げていく、束ねていく。その先鋒を担うのが、司書の方や関係する先生方であると思う。

 大事なことや必要なこと、役に立つことをたくさん情報提供されると、人は逃げていくのが自然である。私は、もっと肩の力を抜いて、役に立たないけれどもおもしろい情報を、一つか二つくらい教えるのがよいのではないかと思う。答えは出さずに、みんなで考える、調べてみる、疑問形に留めておく、そんな新聞をつくってみてもよいだろう。

 新聞に関心がない先生方の目をこちらに向けさせ、巻き込まなければならない。司書の方が短い記事で話を振ってみたり、あるいは業務命令という形でもよいかもしれない。子どもより、そちらの方が大変だと思う。司書の方々には、ぜひ、肩の力を抜いて、気楽に、ときにはふざけて、頑張っていただきたい。