神奈川NIEミーティング

NIEミーティング議事録 2014年7月18日(金)

場所 NIE全国センター会議室
参加者数 22名
司会 鎗分逹文
記録 鈴木洋平
内容
1.参加者による「本日の新聞」紹介
ベネッセ個人情報流出、DNA鑑定訴訟、逗子海岸来場者減少、ウクライナでマレー航空機墜落、イスラエルのガザ侵攻など。
2.本日の報告
報告者:佐々木悦郎先生(神奈川県立上溝高等学校 国語科教諭)
「シチズンシップ教育実践推進校における実践報告」

(1)シチズンシップ育成のためのNIEの実践

神奈川県立上溝高等学校は、平成25年度から県のシチズンシップ教育実践推進校に指定された。今年度からシチズンシップ教育との兼ね合いから、生徒に社会的な関心を持たせるためにNIEの導入を行っている。

本実践は、生徒に自らの生き方や社会のあり方などを考えさせることを目標として、@朝学習、A総合的な学習の時間、B各教科の授業にNIEを導入した。

@朝学習

朝学習では、遅刻防止も兼ねて、ショートホームルーム前の10分程度を使い実施する。A4版一枚に収まる分量の課題を与え、裏面には解答を記して自己採点ができるようにしている。

国語の課題は、新聞の社説やコラムを読ませ、使われている漢字の書き取りを行わせている。そして、その記事の内容に関する考察を書かせ提出させる。この実践では、語彙力を身につけさせるために読ませることを目的し、同時に受験を念頭において漢字を覚えさせている。

A総合的な学習の時間

総合的な学習の時間では、教師が生徒の関心を示すような情報(今回の報告ではディズニーランド)を新聞やネットから抜粋して一覧にまとめ、記事を生徒に比較させる。その比較した記事が、どのように伝えようとしているのかを読み取らせ、その中から自分が使えそうな情報を選択させる。そして、数人のグループで、自分がどのようにその話題を受け取ったかを説明する。

この実践では、生徒自身に情報をどのように判断していくことが良いのかを考えさせることを目的として行われている。

B各教科での取り組み

国語科においては、小論文指導の一環としてNIEの実践を企画した。2週間分の数社の新聞を生徒に読ませ、その中から興味のある話題を取り上げさせ、その話題を取り上げている記事を比較させる。比較した記事の中から、一つの新聞社に絞り、それを小論文の題材とする。

小論文には、なぜその新聞社を選んだのか、どのように扱われているか、読者に何を伝えようとしているのかを盛り込ませ、800字以内で書かせる。

(2)報告者の課題

朝学習では、漢字だけを拾い上げてしまった生徒がいた。そして、考察は書いてくる生徒が少なかった。

国語科の取り組みにおいては、小論文の書き方を丹念に学ばせなければならないため、最後まで辿りつかせることが難しかった。また、記事の内容(ストーカー問題)に関心を示したが、感想文になってしまった。

朝学習、総合的な学習の時間における実践は継続して実施しているが、各教科での実践ではあまり新聞を授業で用いられていない。新聞を授業に導入することを、今以上に他教科の先生方に関心を示していただき、2学期は授業改善をさせ、各教科で積極的にNIEを導入していきたい。

(3)質疑応答

Q. 上溝高校はどんな高校か。
A. 今年で創立103年目を迎え、生徒の約8〜9割が進学する。素直な生徒が多く、生徒たちはイベント(体育祭など)に積極的に参加し、イベントは生徒主体で進められている。

Q. 情報の確かさをどのように習得させているのか。また、小論文はどのような書き方をさせていたか。
A. どれが確かなのかは教師も分からない。新聞に限らず、ネット、テレビの情報も照らし合わせながら、生徒自身で判断させて、他人の生徒の意見と比較させる。 小論文の書き方はパターン化させていた。1、テーマに賛成か反対かの立場を示す。2、なぜその立場なのかを説明する。3、具体的な事例を取り上げて説明する。4、自分と反対の意見を書く。5、どうすればその意見に反論できるのか説明する。6、反対の立場の人が納得できるようにまとめる。

Q. 新聞で指導しなければいけないのはなぜか。
A. いろんなツール使って教えたいと考えているが、朝学習の10分間でパッと見せてわかるのが新聞だと思い使っている。

Q. シチズンシップ教育推進とNIEと学力向上を練る組織はどこか。
A. シチズンシップ教育推進は企画会議が担い、基本的な枠組みをつくった上で実践に結び付けていくことを考えている。NIEは私自身(佐々木先生)、学力向上は教員全体で行っている。

Q. 新聞を使ったことによる生徒の反応はどうだったか。
A. 広告の料理に興味を示し、料理に関してのコメントを取り上げてまとめていた生徒がいた。

Q. シチズンシップ教育実践推進校はどのようなものか。シチズンシップ教育は、市民として、社会に出ていく基礎づくりであると思う。国語だけでなく、社会的な関心を深めるための公民やキャリア教育、他の教科との関連をさせないことにはうまく機能しないのではないだろうか。 NIEはシチズンシップ教育であり、新聞を通して社会と自分の関わり方、自分の生き方を学んでいくことが出来る。社会への関心を広げさせていくことに大きな役割を果たすだろう。
A. 現在、教科を超えた学力を測るという方向へ大学入試も変わってきているため、教科を超えた総合的な学力が求められているだろう。しかし、教科が独立しているため、他の教科と結びつかない現実がある。また、イベントをこなすことに重点が置かれてしまっている。そのため、新聞がつかえず、NIEの実践にトータルで動くことは難しくなっている。

(4)参加者による今回の実践への意見

・生徒たちは新聞を素直に読んで、ただ感想を書いてしまっているのではないかと感じる。新聞を比較することは素直な生徒には難しいのではないだろうか。そのため、一つの記事に絞って書かせてみれば、意見が述べられて、小論文にもつながりやすいのでは。

・中学校でやったものを一からやっているように思える。もう一歩上の段階での実践を想定していけるのではないだろうか。中学の内容と重複してしまうところがあるため、中学と高校の連結をさせて行ってみては。

・シチズンシップ教育では話し合いの時間が大事になってくるのではないか。それを話す場が少なくなっている。

・メディアリテラシーを育むための記事が適切ではないのではないか。明確に議論が出来る記事(集団的自衛権など)を提示しながら討論させる。新聞はこのようなことが出来、自由なものだと思う。 ただワークシートをやらせるのでは生徒たちが主体的に関わっていくことが出来ないため、生徒自身に記事を選ばせてみてはどうか。

・新聞社によってそれぞれ構成が違う。DNA鑑定訴訟においては一方では一面で、一方では三面で使われている。子どもたちがつくるとしたら、どれを一面に持ってくるだろうか。例えば、「私(先生)がつくるとしたらこうつくる」を示してみては。

・上溝高校にはまじめで熱心な生徒が多い。よい子だからこそ授業では定型文で答えてしまい、自分の答えを言えないのだろう。先生方が丁寧に授業を積み重ねていこうとするため、はみ出せない子が多いのでは。生徒たちは引き出しが少なくなり、物が入っていきにくくなってしまっている。まずはどのような生徒にしていきたいかの生徒像を持つ。

「私の高校生の頃はこうだった」という話をして、学校とは何かをしてはいけない場所だということを打ち破っていかせることが必要では。新聞の中に放り出して、自分で考えさせる、ある種丁寧ではないNIEの指導が必要かもしれない。

(5)まとめにかえて

以上のやりとりがあった。このやりとりで印象に残っているのは、生徒たちはエネルギーを持っているが、「学校ではこうすればいい」という枠にはまってしまっている、という点である。無難なよい子を育てようとしてしまうがゆえに、生徒たちは枠にはまってしまい、自分の考えを述べることが出来ないのかもしれない。先生には生徒側に立ったうえで、生徒たちに自由に考えさせるためのNIEを導入していくことが求められるだろう。

生徒たちを教科という枠、学校という枠にはめないNIEにより生徒は自分の価値観を持つことが出来るだろう。そして、他者との対話でその価値観が揺さぶられていくことにより、目的としてのシチズンシップは生徒たちに養われていくのかもしれない。そのためには、今回のやりとりでも出てきたが、新聞から生徒たちが考えたことを自由に話し合えるような場が必要であると感じる。