神奈川NIEミーティング

NIEミーティング議事録 2015年5月15日(金)

神奈川新聞社場所 神奈川新聞社
参加者数 23名
司会 金子幹夫先生(神奈川県立平塚農業高等学校初声分校)
筆記 藤本健(横浜国立大学院生)
内容
1.参加者による「本日の新聞」紹介
安全保障体制、ドローン規制など。
2.本日の報告
報告者:重松克也先生(横浜国立大学)、塚越真理子先生(練馬区立開進第一中学校)
3.ミーティング
4.質疑応答

メールからLINEへ その移行がもたらす対人関係の変容について―
実態調査とその考察

つい最近まで、私たちは今でいうガラケーを持ち、メールや通話を行うことが一般的であった。しかし、現在ではスマートフォンを利用する者が増えてきている。スマホの利用率は10〜30代の世代において男女問わず高く、若者の中ではSkypeやSNSなどの個人や複数でやり取りができるアプリが人気を博している。中でもLINEは10~20代を中心に、友人や恋人の間での新しいコミュニケーションツールとして広く用いられている。

今回の報告では、LINEの特徴、およびLINEが若者たちにもたらす人間関係や生活空間への影響を、かつてのケータイ・メールとの違いや、それらがもたらした社会への影響を土台に比較しながら検討していく。

LINEが普及した社会と、携帯が普及した当時の社会との比較

 2000年前後、携帯が普及し始め、通話よりもメールという連絡手段が一般的になった(通信料が通話料より安い、などの理由から)。メールが画期的な点として、バスに乗っている間など「すき間」の時間をとことんまで活用できる(動員できる)点があげられる(中西2004)。

⇒このことから、メールは友達との間で行われるのが一般的であることから、新たな人間関係を広げていくというよりも既存の関係を強化するような方向性に向かう。

⇒このようなメールの機能が普及したことで「メール文化」と呼ばれるものが形成された。

*メール文化の特徴
@メール文面による装飾(顔文字/絵文字/デコレーションメール)
 若者たちは顔文字や絵文字を利用することで、誤解を招きやすい文字によるコミュニケーションの制約を乗り越え、びみょうなニュアンスを込めることができるようになった。しかしこれは同時に、受け手側に送り手の気持ちやニュアンスを読み取ることが求められるようになった。

⇒一方、LINEでのスタンプはキャラクターの表情が豊かであり、サイズも大きいことからスタンプだけで会話ができてしまうほどである。例えば、会話を終わらせるタイミングや返事に困ったときにスタンプを送ることで、自然に会話を終わらせることが可能なのである(コグレ・まつもと2012)。

Aメールを送受信する際の作法的なもの(「即レス」、「5分ルール」)
 メールが届いたら5分(3分など)以内に返信しなければならない、というルールの存在。いつまでも返信しないと仲間はずれにされるかもしれないという強迫観念がまたルールを作り出す。それゆえ、電波が入らないところにいると落ち着かない、何度もケータイを確認するなどの行動が見られる(小川2011)。ここでは、メールの本文内容よりもメールが続いているということ自体に重きが置かれていると考えられる。

⇒LINEは会話のように次々とより短いメッセージで発言し続けていけるもの。何通やりとりしたという件数よりも、その瞬間にやりとりをしている、という行為に対して、友達と時間を共有していることが感じられるのではないか。

つながりを確認したい心理と「LINE疲れ」

*つながり確認の「儀式」
SNSなどで絶えず友人の動静をチェックすると同時に、自らの行動や感情を逐次報告する。お互いの周りに特別なことがないこと、心理的回路がつながっていることを確認する「儀式」(橋元2008)。

⇒LINE上では、メッセージやスタンプのやりとりと、そこで共有している時間から、こうした信頼の感覚を確認しようとしているのではないか。

*つかず離れず「みんなぼっち」の「やさしい関係」
「みんなぼっち」:若者たちは仲間と一緒にいるのだが、濃密なコミュニケーションはなく、結局ひとりぼっちでいること(小川2011)。

Ex.) カラオケで誰かが歌っていても、他の人は携帯をいじっているなど。
「やさしい関係」:「現代の若者たちは、自分の対人レーダーがまちがいなく作動しているかどうか、つねに確認しあいながら人間関係を営んでいる。周囲の人間と衝突することは彼らにとってきわめて異常な事態であり、相手から反感を買わないようにつねに心がけることが、学校での日々を生き抜く知恵として強く要求されている。その様子は、大人たちの目には人間関係が希薄化していると移るかもしれないが、見方を変えれば、かつてよりもはるかに高度で繊細気配りを伴った人間関係を営んでいるともいえる」(土井2008)

⇒LINEは、メールよりもさらに「仲間とのつかず離れずを調整しやすいツール」といえるだろう。しかし、「すぐに返信をするように気を配り、伝える内容ではなく頻繁につながりを確かめるようになる」と、LINEが気疲れするツールになってしまうのではないか。

*「LINE疲れ」
 LINEには「既読機能」がある。この機能によって例えば、メッセージを送った側からすると「送ったのに既読にならない。」「既読がついたのに返事が来ない、無視されているのではないか」などといったことが気にかかってくる。そのため、受け取った側は開いたら(既読にしたら)、すぐに返信しないといけない、というプレッシャーも感じる。

⇒読売オンライン記事(2013年6月28日)に挙げられていた「Fastask」を用いた「大学生のLINE利用実態調査」では、半数近い人がLINEの利用に疲れを感じているという結果がでている(下に調査結果)。

「大学生のLINE利用実態調査」
Q. LINEのトーク利用で疲れを感じることがあるか?
あてはまる:12.5%
ややあてはまる:33.2%
あまりあてはまらない:32.5%
あてはまらない:21.7%

LINEが普及した後の社会はどうなるか

今までは1日何十通というメールのやりとりが身近な友人関係を築く重要な手段となっていたが、その機能はLINEの会話形式のやりとりにとって代わった。かつ、グループトークが可能なLINEでは学校空間が帰宅後もLINEを介して続くという状態をもたらしているといえる。1対1でやりとりをするケータイ・メールは、複数で同時にやりとりできるLINEに移り変わる。会話はより早く、多人数に、コンパクトに、そしてスタンプを使ったその循環の感情を表す表現が今の若者のコミュニケーションの方法の一つとなりつつある。LINEが普及した社会では、コミュニケーションの高速化と拡大化がもたらされているといえるだろう。しかしそれゆえに、通常の学校空間が24時間続いてしまい、つかの間の休息の時間がなくなっているのではないか。同時に学校空間とは別の、LINEの中での新たな人間関係形成の必要と可能性がもたらされつつあるといえるのではないか。

アンケート調査
調査対象者:平成25年9月現在で横浜国立大学に所属する、学部一年生から大学院二年生までの学生
標本数:101名
調査期間:平成25年度9月中旬
調査方法:アンケート調査する本人と、その者が所属するゼミのゼミ生などが、アンケートを配布し、その場で回収。

報告者による調査の結果を踏まえた感想と課題

 既読機能・スタンプ・グループLINEとの関係性によって、LINE疲れせずにLINEと付き合っていける傾向性があることが考えられる。また、女性の方がつながりを大事にしてそこから抜け出せない傾向性があるのではないかということが考えられる。

 しかし、今回のアンケートは母体数が少なかったため、有意なものであるとはいえないだろう。また、中学生や高校生のほうが大学生よりも複雑なLINE上の関係性があるのではないかと考える。また、実生活とLINEの中での友人関係との関係性(LINEでうまく振舞うことができれば、実生活でも地位が向上する)など機会があれば、考察していきたいと思う。

 以上のような報告があった。LINEによってコミュニケーションの高速化や拡大化がもたらされることで、つかの間の休息の時間までも奪われ、そこに疲れてしまう若者がでてきている。しかしその中で、逆にLINE特有のスタンプを駆使することによって、今までよりも楽に空気を読めるようになった、苦しまず適当に返信することができるようになった若者もいるというのが印象的であった。LINEでの会話は、スタンプなどを駆使した独特な会話方法が用いられていることから、普段の会話とは違ったコミュニケーション世界が若者たちの間に広がっているのだと考えられる。このような人間関係を形成している若者にとってのNIEを考えた時に、NIEはどのような意義を持つのだろうか。このことを踏まえつつ、私自身実践していければと考える。