神奈川NIEミーティング

NIEミーティング議事録 2015年1月16日(金)

NIE全国センター会議室場所 NIE全国センター会議室
参加者数 17名
司会 石本健二(NIE推進委員会事務局長)
記録 鈴木洋平(横浜国立大学大学院生)
内容
1.参加者による「本日の新聞」紹介
フランス紙編集部襲撃テロ事件、小山田遺跡で新たな古墳発掘、阪神淡路大震災から20年、炭素繊維が担う最先端など
2.本日の報告
報告者:藤井健太先生(横浜市立稲荷台小学校)、川瀬貴是先生(横浜市立名瀬小学校)

実践報告 (藤井先生) (1)実践

稲荷台小学校では4学年、5学年、6学年で新聞をとりいいれた学習を実践してきた。その中で、6学年としては社会科や総合科での活用を念頭に実践を重ねてきた。特に、稲荷台小学校の重点研究教科である社会科での活用を中心に新聞を活用した。「戦後復興」という内容を、国際社会への復帰、民主化、工業・産業の発展、国民生活の向上、国民の自信・誇りという項目に事象を絞り、調べ学習を中心に身近なものから考えていく学習である。

◆授業までの新聞の活用

  • 朝の会で日直が新聞紙面から選んだ記事を紹介し、考えたことをまとめて発表する。
  • 新聞を継続して読む中で興味のある内容を選び、スクラップしたり、記録したりする活動を行い、「総合」で手作り新聞にまとめる活動。
  • 自分で興味ある内容を取材し、一枚の新聞にまとめる活動。

◆授業における新聞の活用

@調べ活動
人々の暮らしを調べる活動では主に、当時の新聞記事や新聞広告に注目して調べ活動を行った。当時の人々の生活を知るうえで、

  • 投書の記事
  • 電化製品の広告

は子供にとってわかりやすい資料であった。

A授業中の提示資料

  • 家庭で電化製品を急に使用するようになったわけについて考えるための提示資料。

「テレビが家庭にある割合」と「テレビ一台の値段」、「家庭で自由に使えるお金」の関係の複合グラフと補助資料としてオリンピックと関連付けたテレビの広告(読売新聞)。

  • 東京オリンピックの閉会式の様子を描写した新聞記事を提示することで、敗戦国として出発した日本が、戦後、アジアで初のオリンピックを開催し、平和に寄与する国として世界に認められたことがわかるようにするための資料。

オリンピックの開会式と閉会式の写真と補助資料として東京オリンピックの閉会式の様子を文章にした新聞(毎日新聞)。

◆Aの資料を受けての子どもたちの声

「本当に望まれたオリンピックだったのか」

「オリンピックによって世界に認められるようになったんだ」

(2)質疑応答 (藤井先生)

Q. 今回の授業で、子どもが日頃から読んできた新聞から、「こんな資料もあったよ」や「こんなこともあったよ」といった語りはあったか。

  • 「子ども新聞」を取っていた子どもが、過去のバックナンバーから東京オリンピックのことを引き出して語っていた。
  • 東京オリンピックの開催時の新聞を持っていた地域の方に、新聞を持ってきていただいて、子どもたちは新聞を見ながらそのときの雰囲気を感じ取っていた。

Q. 子どもたちが投書の記事や広告に食いつきが良かったが、なぜ子どもたちは食いついたのか。他に提示して食いつかなかったものはあったか。

  • 投書には、生の主婦の言葉があり、文章が柔らかかったり、わかりやすかったりする。新聞の記事の固い文章は、6年生にとって難しいので、投書の記事はわかりやすく新鮮だった。
  • スポーツ欄に野球が好きな子は食いつき、その当時の野球のことも調べていた。またテレビ欄への食いつきも良かった。
  • 食いつかなかったのは、「オリンピック需要でテレビの生産が追い付かない」という記事。記事が印刷版のコピーで文字が読みにくく、文章が難しかったからではないだろうか。

Q. 5年後の東京オリンピックについての子どもたちの意見は。

  • オリンピックという言葉が出てきてからずっと出てきていた。興味を持って調べていた。
  • 子どもからは「国立競技場が変わるんだ」といった声があった。

Q. 50年から60年代を子どもたちはどのように感じるのか。

  • 江戸時代のことは何も感じないと思う。戦争体験者が戦争を勉強するときの思いと似たような感じがある。
  • 戦後史をひも解くみたいな感じになっていく。
  • 広告や写真にもう少し立ち止まってもよかったのでは。
  • その当時の家電のCM、広告は全部オリンピック絡みであった。銀行の貯金、時計も。
  • 最近の新聞は自動車の広告が少ない。高級車のCMもない。
  • 広告は時代を映す鏡である。

実践報告(川瀬先生) (1)実践

◆実践を始めるにあたって

川瀬先生は、新聞を通して世の中に関心を持ち、起きている事実を知って自分の意見を持ち、進んで関われるようになってほしいという期待を持って実践を行っているという。事前に子どもたちに対して行ったアンケートでは以下のような結果が出た。

まず、家が新聞を購読しているかどうかを尋ねた。

  • 「家が新聞を購読している」 ・・・9名
  • 「購読していない」 ・・・10名(うち4名は以前購読していた)
  • 「わからない」 ・・・7名

次に、学校の授業以外で新聞を読んだことがあるかを尋ねた。(番組表を除く)

  • 「読んだことがある」 ・・・9名
  • 「読んだことがない」 ・・・17名

最後に、新聞を読んでみたいかどうかと答えた子どもは10名。残りの子どもたちが新聞を敬遠する理由は、「字が多くて読みづらそうだから」、「難しそうだから」であった。このことから次のようなことを目標に実践を始めた。

  • 子どもたちが、新聞が小難しいというイメージを払拭すること。
  • 子どもたちが、新聞に興味を持って自分から手に取るようになること。
  • 教員に与えられて「学習する」のではなく、子どもたちの「やりたい」という気持ちを引き出すこと。

◆ゲーム的な遊び

 手元の新聞からお題に合うものを探す「新聞ビンゴ」、読み聞かせた新聞記事の見出しをグループで考える「見出しコンテスト」、グループで一つ小学生新聞から記事を選び紹介する「新聞記事コマーシャル」を行った。

 新聞に対する小難しいイメージを払拭するための活動であり、それには成功したように見えた。しかし、この活動はあくまで「遊び」であり、思考力を働かせたり、そこからコミュニケーションを広げたりするには及ばない。持続していくことで変容が見られるようになるかもしれない。

◆国語の授業での活用

 新聞を作る学習にて、複数の銘柄の新聞から構成を学んだ。子どもが自分で記事を書く際にも、見出しを考え、リード分を書くのに当たって実際の新聞を参考にした。「本物」を参考にしたことで子どもたちの意欲が高まり、より印象に残った様子であった。しかし、情報の収集や加工においては十分に活用できなかったのが、今後の課題である。

◆新聞記事を使ったコミュニケーション

●朝の会での新聞記事紹介

 朝の会で川瀬先生は、子どもが興味を持ちそうな記事や総合的な学習の時間で取り組んでいることに関連した環境問題や科学技術の記事を紹介した。その際、教室で記事を選んでいるところを見せることによって選んでいる最中に子どもが一緒に記事を眺めたり、むしろ子どもから記事を薦めたりする姿が見られた。注意したのは、「やらされている活動」にしないため、あくまで紹介するだけで、感想や考えを何かに書かせることはしないということである。

紹介した記事の例

  • 「ミドリムシ燃料始動 資源培養企業に熱」 6月26日(日経)
  • 「うなぎが絶滅の危機なの?」 6月28日(日経)
  • 「カイコが先端工場に」 7月 8日(日経)
  • 「新気象衛星ひまわり8号」 9月18日(読売)
  • 「五輪へ 若手に期待」 9月20日(毎日)
  • 「長野震度6弱 41人けが 余震続く」 11月24日(産経)
  • 「自公2/3維持 投票率最低52%」 12月15日(東京)

●新聞の写真で交流

 新聞記事に載っている写真を印刷・配布する。その写真から気づいたことや思ったことなどをプリントに書き込み、その後メモをもとに友達と交流する。型にとらわれず自由に話せるよう、交流の方法や話し方などはあえて示さず、話す内容も指定しない。聞いているだけでもよしとした。写真を見ているうちに写っているものがなんなのか知りたくなり、記事の内容に興味が向くことや、自分から手にとって自力で読むことまで期待しての活動なので、取り上げる写真は、主に小学生新聞から選んだ。

●新聞記事から写真を選んで交流

 一般の新聞を一人一部手に取り、その中から「気になる一枚」を選ぶ。写真から気づいたことを書き出して、グループの友達と見せ合う。最後には選んだ写真をクラスのみんなに紹介する機会を作った。ここでも「強制しない」ことを意識した。指示したことは、選んだ写真を切り抜いて張ることと、出典として日付と銘柄を書くことだけである。 この段階になると、写真の気づきについて友達と話し合うことには慣れているので、グループをつくると自然と話し始めていた。また、写真を貼るだけではなく記事ごと切り抜いて張る子も複数現れた。多くの子から、「この漢字は何と読むんですか」「これはどうゆう意味ですか」という質問が発せられ、自分の記事という思いを持っている様子であった。さらに、記事の内容を自力で調べようと、同じ内容の記事を小学生新聞から探し出して呼んでいる子どももいた。

◆成果と課題

新聞を読ませようと考えず、「話すことのきっかけ」や「コミュニケーションの場」として考えることで、子どもたちが自然体で活動できるようになった。強制せず興味を持てるように仕掛けることで、「知りたい、読みたい」という気持ちを引き出して、それが発言や行動など具体的な姿に表れたところで取り上げ、賞賛によって価値付ける。これを続けることでこどもの学ぶ姿に変化が見られた。来年度は、どういう姿を引き出すのかを明確に持った上で実践し、より効果を高めたいと考えている。

(2)質疑応答 (川瀬先生)

この日は二つの実践が報告され、両者とも充実した報告であったため後半の川瀬先生の実践については質疑応答をする時間を取ることができなかった。

○まとめにかえて

以上が、お二人の実践であった。印象的だったのは、どちらの実践とも新聞の使い方、読み方を子どもたちに教え込むのではなく、子どもたち自身で複数の新聞を自由に選んで、考えていたことである。藤井先生の実践では、授業に入る前から新聞を活用し、子どもたちが自分で好きな記事を選んで発表していた。また川瀬先生の実践では、新聞を読んでからの交流の方法や話し方は示さず、話す内容も指定しなかった。

教科の単元のために新聞を使い、教えたいことを教えようとするのではなく、新聞を自由に選んで読んでもらって、子ども自らが考えて話し合ってもらう。このような子どもたちの姿が教科の枠を超えたNIEの意味するところなのかもしれない。このようなことを今回のNIEミーティングで感じた。