神奈川NIEミーティング

NIEミーティング議事録 2016年7月15日(金)

場所 神奈川新聞社
参加者数 23名
司会 望月浩明
内容
1.参加者による自己紹介・新聞記事についての所感
――略
2.実践報告
報告者:杉山美佳先生(川崎市立栗木台小学校)
3.質疑応答

はじめに

 この4月に現在のクラス担任になってから、本日までの実践の様子を報告する。私自身、NIEを、教科の枠を越えて実践していくことに意義や成果があると考え、推進している。子どもたちは最初、新聞に興味がなく、新聞そのものことはわからない、デジタルHPから(ニュース)目を通している。ゆえに前任校で私がずっとやってきたことを一旦すべてゼロにして、実践を始めるという形になった。

 本日は、「はじめの一歩」と題して、新聞に興味・関心がない子どもたちが、どのように新聞を使いながら、ものの考え方を広げたり、人と関わることを喜んだりしたのか、また、スクラップ的なことを楽しんでやっていくように心が変わっていったか、という報告をしたい。

実践校のようすと実践のねらい

 「ピンチはチャンス」であると考えている。すなわち子どもたちが(新聞について)何も知らないのであれば、それは、「新聞のことを嫌いではない」とも考えられる。これはチャンスであり、新聞に対して拒否的な概念などもないだろうと思い、取り組む計画を構想した。 「地道にやっていくぞ」という心持ちであった。

 子どもたちはというと、話を聞くことは得意としているが、他者に関心がなく、自分でなんでもできてしまうつもりでいるようすであった。そこでまず、新聞を読むことに関して以下のキーワードを提示した。

 
・事実の中から、思考する
・感情をもつ
・相手意識が生まれる
・自分軸をもつ
・目の前の出来事をリアルにキャッチ

 しかし、子どもたちの顔色は変わらず、新聞に対して興味が生まれた様子もなかった。なのでまず、新聞に出会う機会をつくり、新聞からの学びを体験させたいと考えるに至った。学校の教育課程の中にNIEの時間を確保することは困難であったので、家庭学習、朝の時間、各教科のまとめの時間などで活用していくしかなかった。とにかく、理屈ではなく、実践していくことが重要であると考えた。

 子供たちにつけたい力として、もう一つ、「読みの力」を位置づけた。子どもたちはオーソドックスに物語や文章を読みはするのだが、どこかマニュアルのように読んでいるようにも見てとれていた。なので、「あなたが読む力」をつけたいというねらいもあった。

はじめの一歩

 まず、はじめに、廊下の壁などに、私が前任校でNIEに取り組んだ際の、ポスター形式のスクラップを掲示した。それから、NIEに取り組む言語環境を設定するにあたって、子どもたちとテーマ、記事を選ぶ視点を決めた。(以下)

 
1.平和と戦争
2.いじめ
3.オリンピック
4.スポーツ
5.新聞と出会い人と出会う

 この5つに絞った記事を集めていこうと決めた。子どもたちに言語環境を提供するために校長・教頭先生をはじめとして、学年や教科の枠を越えた先生に協力をお願いした。さらには、子どもたちにも協力してもらいながら、全学年のフロアに長机を設置し、テーマに合った新聞を子どもたち自身に並べてもらうという取り組みをした。

言語環境を自分たちで設定することの意義

 テーマに合った新聞記事を並べるという作業をするなかで、子どもたちは知らぬ間に新聞を「まるごと読み」するからである。毎週木曜日に各クラスから5人ほど集めて、このような取り組みを行ったのであるが、その中で、テーマに合った記事を子どもたち同士で話し合いながら掲示することにも価値があったように思う。

少しずつ見えてきた手ごたえ

 このような取り組みをするなかで、次第に子どもたちが新聞などに興味を持ち始めてきたように思われる。活動を通して、子どもたちが友だちの作品に興味をもつ様子が見受けられたり、新聞コーナーの見出しなどを子どもが自分で作るようになったりして、こちらとしても、「いいぞいいぞ」という思いであった。また、新聞コーナーに椅子を置き、カフェテリア風の憩いの場にもなった。

具体的な取り組みと子どもたちの変化

 まず、子どもたちに新聞記事の読み方を身に着けてもらうために、蛍光ペンで記事を囲むという活動をした。そのうえで、以下の取り組みをした。(以下、当日配布レジュメから抜粋)

 
1、蛍光ペンで囲んだ記事の周りをはさみで切って持ってくる(学校に)。
2、画用紙に、タイトルなどを書き、独自性のある「新聞から学ぶ」作成に集中する。
3、まずは、記事をどこに!見栄え。レイアウトを作りながら思考する。
4、一番心に残ったキーセンテンスを紹介するために、そのまま視写する。本文に立ち返る。
5、なぜ、心に残ったのか、理由を書く。
6、この記事から学んだことを「今日の栄養」として書く。

 また、この活動の延長線上として、子どもたちから、「新聞ビジターセンター」を開催したいという声が上がった。この活動では、子どもたちが付せんをもちいて、友だちの作品にコメントを書き合った。「新聞から学ぶ」友だちの考えを知ることで、「人と関わること」、交流が生まれたといえるのではないだろうか。

記事といまの自分が向き合うということ

 新聞にはいろいろな人の努力、がんばり、苦労、あるいは悪いことなどが紹介されている。そのような記事の中の人とも子どもたちは出会っている。そのなかで子どもたちは、いまの自分と比較してものを書くようになっていった。自分だけじゃなく、同じように苦しんでいる人が記事の中にいることに気がついた子どもなどもみられた。

 ごくごく普通の子どもたちが、今は新聞を読みたいと、言うようになってきている。私は、このような日常的な言語活動を、もっとカリキュラム化していきたいと、個人的には考えている。

子どもたちの作品紹介など

・ポスター作品

・新聞に関する「五・七・五」

質疑応答

(――小学校の先生方から)

Q:この実践を通して、杉山先生が一番子どもたち身につけさせたい力というのは、「ものの見方考え方」という理解でよいか。
A:最初は「かかわりあい」であった。例えば休み時間に本を読んでいる友だちがいたら、その子を「読書好き」と簡単に捉えてしまうというように。本当は、その子は違って、「友だちとかかわることが苦手なため、中休みは一番つらい時間となり、本を読んでごまかしている」。新聞を通して「かかわり」を大事にしたいなと考えるようになった。はじめから「しゃべろうしゃべろう」というのは無理なので、このように、その子の得意な、書いたり読んだりというところを伸ばして、そして付箋を活用して、コミュニティをもちながら、「うれしい」という感覚を持ってもらいたい。
Q:「教科」として取り組んだというわけではないのか。
A:「教科」としてはまだ位置付けていない。素地の部分で、「教科」と「日常的言語活動」の並行学習として考えている。耕しの時間である。また、「福祉」というテーマで、記事をさがすとき、子どもたちは福祉関連の記事に出会う機会は少ない。福祉というおおまかなテーマで、お気に入りの記事を探すことは無謀である。
Q:5つのテーマは、杉山先生が提案されたのか。
A:これは私から提案した。特に「いじめ」は、永遠のテーマであると考えている。また、「オリンピック」は、4年に1度しかないので、いろいろな選手たちの努力や挫折なども知ることができる。絶好のテーマであると思う。最後のテーマは、私が一番重要だと考えているものでもある。
Q:新聞はどのくらいの部数を使っているか。
A:私が個人的にお世話になっている販売店さんに協力していただいている。また、保護者の方にも協力してもらい、資源回収に出す前に子どもたちに学校に持ってきてもらったりする。
Q:杉山先生は、新聞にどのような可能性、魅力をかんじているか。
A:個人的には「読書」「読み」と部活指導の中で新聞が鍵となるなと思い取り組んだ。素朴にハマっていった感じである。一言ではとても言い表せないが、自分自身が新聞を通して、いろいろな人と出会っていると感じている。

(――中学校の先生方から)

Q:この実践、活動の先のビジョン、展開について何か考えているか。
A:新聞で何か単元をつくるということは今のところ考えてはいない。今、子どもたちには全教科で、あるいは授業外の時間における「空気のような存在」として、新聞が位置づいているように思う。この子どもたちに必要であるのは「こころ」、「気づき」、「関わり」だと考えているので、学年、学校で協力していくために、教科「総合」などにしっかりと位置付けてやっていくことは必要であるかもしれない。

横浜国大名誉教授からのコメント

 すごく感心しています。ここに参加のみなさんにお聞きしていたいのですが「読み取る力」がある子の記事見てください(「新聞から学ぶ」のポスターを表示)、ここで、EU離脱のところでですね」。本当に少ない票で、EU離脱が決まったという。ポイントのところをきっちり読み取っている。こちらもそうですね、沖縄の慰霊祭での沖縄の小学6年生の詩の、こういった読み取りとか…このように、みなさんのクラスとか、あるいは学校で、「ポイントは、ここだ」というところを、間違っていてもいいから、読み取るっていく力が、子どもたち、あるいは学生たちには、ありますか?丁寧に読み込もうとすると、あれもこれもって書き込んでいってね、だらだらと要約しちゃうっていう傾向があるのではないかと思うのです。なんでこんな風に「読み取る力がついているのであろうか。杉山先生の指導の秘密?もしくは何か秘密があると思うのです。それともう一つは、「言葉にする力」?ここにも書いてありますけども、新聞から学んで「五・七・五」をつくりますよね。これ結構素晴らしいと思いませんか?なんでこういう表現ができるのであろうか。やっぱりそれがこういうところに隠されているのだろうと、思います。そして、さらに良いなと思う点は、国語科の学習と並行している姿が見られます。これをもっともっと皆さんで時間かけて分析し、読み取って頂けたらいいなと、思いながら次の機会に杉山級の子どもたちの成長を一年かけてみていきたいと思います。率直に言えば、もう一回、もう一コマ時間をとって、杉山実践についてみんなで意見交換を、そういう時間があったらもっといいなって思いました。杉山先生ともっとお話しされたいと思います。

 僕も見ていて、スポーツ選手の記事でも、その選手が大事にしているところを的確に引っ張って書いて、引き付けて言葉にしているのですよ。「関わる力」がないとか、「他者への関心」がないとか最初言われていたのですが、そうすると、イメージしていたのは、その新聞にラインマーカーで線を引くっていうのは、最初子どもって緊張すると思うのですが「間違えちゃいけない」とか。たぶんそこには杉山先生の何か投げかけなり問いかけなりみたいなものが、あったように思います。その、秘訣というか、指導というか…。あと、同じように言えば、杉山先生がテーマを5つ挙げられたのですが、「読みの力」があるのだと思います。「福祉だと書けない」「見つけられない」っていう時に、前任校とは違って、この学校の子どもたちに対して、このテーマだったらいけるのではないかな、その5つのテーマだけじゃなくて、なぜこれで切り出すことができたのか、どういう風に考えたのか、というのが、 そういったところが、実は一番大事な、僕がこう考えたいことかなと。語られなかった部分というか。たぶんただ子どもたちにやらせても、話したりしないでしょう。だから、何かあると思います。きっと杉山先生がパーッと通り過ぎている中に、僕は大事にしなきゃいけない何かがあると確信しました。そこら辺をお聞きしたいなと。

A、杉山
ひとつだけその記事があって、ここっていうところに、蛍光ペンを引いてきますよね。国語の学習でもやるのですが、どんな読みをやっても、何個でも彼らは選ぶのです。自信がないから。人と違ったら不安だから。先生が言う読みを選ばないとダメって思っているのです。なので「選ぶキーセンテンスは、センテンスはひとつね」と子供たちに伝えます。すると何度も何度も行ったり来たりして読むのです。  「映画館に行ったら、終わったときに、もう一回あの場面観たいねっていう、ところあるでしょう?」「この一文っていうところをこの記事の中から選んでね」と仕掛けていきます。そうすると、根拠が生まれてくるので、選んだ一文とその理由、そして自分たちで得た学びの栄養があるのです。
――十何点しか読んでないんですけれども、たぶん教科学習と違って、子どもが自由になっているんじゃないかと思います。「こう書かないといけない」という枠を外されて、自由に心が解放されているというか。実は僕はそれがNIEの目的であると考えている。「今日の栄養、人間みんなバラバラだ」とかですね、それに気づいてもらうというのは、それだけでもすごいなと。「バラバラだけど、一緒に生活していくんだ」とか。それは、小学生だからできるんじゃないかと。逆に学年が進むにつれて自分の中に縛りが出てきたりね。小学生ならではというかね。先生に新聞をこのように使っていただいてありがたいなと。

〈同上――記録者〉

 以上のような議論の後に、次々回(10月)のミーティングでも引き続いて杉山実践について検討・議論することとなった。

――以上記録 秋岡祐樹(横浜国大修士1年)