神奈川NIEミーティング

NIEミーティング議事録 2017年4月21日(金)

場所 神奈川新聞社
参加者数 27名
司会 中根 淳一(神奈川県立大楠高等学校)
記録 笠谷 直人(横浜国立大学教育学部附属横浜小学校)
内容
1.参加者による自己紹介・新聞記事についての所感(略)
2.報告
報告者:丸山 孝(神奈川新聞社編集局員)
「意外と知られていない新聞記者の一日」
3.質疑応答

報告「意外と知られていない新聞記者の一日」

丸山 孝(神奈川新聞社編集局員)

編集局の組織図

 新聞社は大ざっぱに分けると編集局、営業局、印刷局の3局、あとは事業局などで構成されています。ただし、今はインターネット関係のデジタル編集部が比重を増して、紙面編集と連携してネットに記事を転載しています。これは各新聞社に共通した構成ではないでしょうか。

 編集局に報道部や経済部とともに整理部というのがあります。聞き慣れない組織でしょう。でも新聞編集には欠かせない部署なのです。記事を受けて紙面を作りあげる部署です。各部から届いた記事を限られた紙面に収まるように、しかも限られた時間内で配置を考え、レイアウトしなくてはなりません。

 わたしが入社した20数年前までは、記者は、一つ一つの記事を原稿用紙に手書きで仕上げていました。書き上げた原稿は(デスクを通して)整理部へ渡るのです。今では想像がつきませんが、整理部には当時、記事原稿をベルトコンベアーのような専用のレーンに乗せて、キーパンチャーに届くように流す仕組みがありました。

 記者が取材先から原稿を送るときは,FAXで送信したり、電話を通して口頭で伝えたりしました。そうして書き上げた記事を整理部員が読んでレイアウトを考え、同時にキーパンチャーがシート状の紙に印字していたのです。カッターを手にした職人がいて、記事をレイアウト用紙に切って貼り付ける作業をしていました。

 ところが新聞編集でも電算化が進み、さまざまな作業をパソコンを通してできるようになりました。つい、この10年ほどで起きた変化です。今では、書き上げた原稿や写真を離れた場所からメールで送信できます。さらに整理部には、10年ほど前でしょうか、独自の編集システムが導入され、一人で紙面構成を考え、見出しをつくり、レイアウトすることが可能となりました。職人が貼り付けていた時代と異なり、記事のさしかえや組み替え作業もあっという間にできます。これは、新聞業界の産業革命といわれるほどの変革でした。新聞業界の仕事が大きく様変わりしました。

 わたしは整理部のほか文化部にも長くいました。作家から原稿をいただくとき、原稿を受け取りに自宅まで伺ったりしましたが、最近はメールでのやりとりが中心となりました。気づいたら、互いに顔を合わせることもなく、卓上でやり取りする時代になっていました。取材といい、整理部の作業といい、端末機の操作で編集、印刷まででこなしてしまう時代になりました。時間も距離も短縮できる、躍進がなされたのですが、考えてみると、人との距離もだんだん遠くなってきたように思います。メールのやりとりだけで済んでしまう仕事が増えましたから。

 私見ですが、それでも取材における「現場主義」は今でも変わらないように思います。例えば事故や事件取材では、現場を見るのと、見ないのとでは伝えられる事実も大きく異なります。その空間に立って、五感でとらえる事実というものがあります。これはネットの情報だけでは得られないものです。

 ネット報道では、刻一刻と記事のさしかえが可能ですが、紙面編集では、朝刊発行の締め切りに間に合わせるための格闘は相変わらず続いています。大事件が夜10時に起きようものなら、取材をして記事を送るまで、命を削るような緊張感を強いられます。各社との競争もありますから。もちろん記事を受けてレイアウトを「降版」時間までに完成させなくてはならない整理部にとっても、まさに修羅場です。事件記者や整理部は、この修羅場が毎日のように続くので、寿命が縮む仕事ですね。

 神奈川新聞は,共同通信社の記事と自社独自の地域取材をもとにした記事を掲載しているので、他紙にない紙面編集の難しさがあります。ましてや本や新聞を読まない人が多くなった今、読者のニーズにどう応えたらよいのか、手にとってもらえるのか。日々模索しています。これは他の新聞社にも共通した課題でしょう。今、新聞業界は、過去にない難題に直面しています。もうあと10年で、新聞業界の形態も大きく変わっているかもしれません。

3.質疑応答,意見交流

質問と意見:本日の朝刊の社会面に、国内最大級のレジャー施設がオープンしたとの記事があるが、なぜその記事をこの社会面に掲載したのか。事件や司法記事が並ぶ中で、この記事だけ異色。新聞社としてどのような世論を形成しようとしているのかがよくわからない。
→その日の大きな構成は、編集会議で決定します。ただし、細かな構成は取材と整理が話し合い、決めていきます。その日に出稿された記事をはかりながら構成を考えますが、その日の担当の判断でしょう。ただ新聞は、さまざまな記事を限られた紙面で見られるように工夫しており、硬い記事のなかに、明るい話題を挟み込むようなことは、時折行われることです。
意見:最近の新聞は,1つの事件をずっと追っていくということはしないのか。千葉女児殺害の事件。私はあの地域の出身だが,あの事件は地域社会の問題が背景としてあるはず。それを追っていくことはしないのか。地域性を探っていくことで,事件の真相に迫ることもできるだろうし,それこそがワイドショー番組など他のメディアにはできない新聞ならではの取材なのではないかと思う。
意見:ある高校の生徒に聞くと、生徒の2割しか新聞を読んでいない。新聞社も工夫しなければ。
→生徒どころか教師の方々も、若い世代においては、新聞を読む人が少なくなっています。「子どもたちに、どう新聞を読んでもらうか」という前に、教師の方々にも関心を持っていただかなくてはならない時代です。明確な指針はまだありません。どこの新聞社も大きな課題として取り組んでいるところではないでしょうか。
意見:国や警察、学校などと記者の壁が大きくなっているのではないか。昔は、「記事がないなら学校へ!」と言われるほどだったが、報道との距離が生まれています。学校という教育の場は,取材の宝庫。四季の移り変わりや子どもたちの学びの姿、いろんな行事や取り組みがある。そんな様子を取り上げることももっと必要なのではないでしょうか。
意見:新聞記事も様々なニーズに応えることが大事だと思うが、「思い切って捨てるところ(記事)は捨てて、カラーを打ち出す」ということも大事だと思う。重い話ばかり載せると社会面がぎすぎすする。以前、「下北半島のサルの悲話」が反響を呼んだこともあった。新聞は読者の共感を呼ぶ話題も必要ではないでしょうか。