神奈川NIEミーティング

NIEミーティング議事録 2017年1月20日(金)

報告者 木南景子(神奈川県立伊志田高等学校)
記録者 秋岡祐樹(横浜国大修士1年)

1、実践報告

◆はじめに

・本校は今年NIE実践1年目であり、右往左往している状況であるが、その様子を報告していきたい。

・私は国語科の教員であるが、社会科で教育実習を経験した。また、以前地元の市役所に勤めていた際、広報誌をつくるために右往左往したり、毎朝新聞数誌を読んだりしていたので、NIE実践校に決まった時は渡りに船だなと思っていた。

・総合の時間に活用するという理由で、10月から神奈川新聞、東京新聞以外の5誌、12月からは神奈川新聞と東京新聞の2誌、という形で学校に取り入れた。

◆実践例紹介

・12月19日の神奈川新聞、東京新聞から、興味を持った記事ベスト3を選ぶという授業を国語総合の時間に行った。

・報告者のクラスでは、9月・10月にもらっていた新聞を使いながら、授業の4分の1くらいの時間を割いて、今日のニュースについて語る活動を設け、徐々に新聞を用いるよう促したりした。

◆手ごたえと悩み

・本校の生徒たちは、まじめで、静かで、従順で、どこか行動したり企画したりするエネルギーに欠けるなと感じていた。しかしNIEの実践では、自然に興味を持ったときの笑顔や、注目しているときの、のめり込む感じといったような表情をみることができたように思う。それが何よりNIEを行って良かったなと感じる瞬間である。

・逆に、やってみて浮き彫りになったことは、新聞を家でとっていない、身近にない生徒が多いという事実である。新聞が当たり前に身近な空間の中にあるという状況をもっと継続的に学校に作っていきたいと考えている。

・一応生徒たちも紙の上では新聞を使って良かった、新しいことを知れて良かったなどと書いてくれてはいる。ただ、その日の授業内だけで新聞との関わりが終わってしまっているようにも感じる。そうではなくて、毎日、学校のどこかにあるというような存在として、生徒の中に新聞が位置づいてくれればと願っている。

・活動させてみて、小学生でもっと「深い学び」をしている子どもはたくさんいるんだよなあということも、正直感じるところではある。無理やりではなくその生徒にとって自然な形で、深くニュースや記事を追及するように持っていくにはどうしたらよいのだろうか、というのも悩みのひとつである。ただ、それを授業でやると、生徒たちは私の求める正解だけを知りたがり、気に入られるように書いてくることが想像される。そうではなくて、自分の考えていることを素直に書き、なおかつそれを深めていけるような実践を行いたいと考えている。

◆来年度以降にむけて

・来年度の取り組みとして、まずは私が購読している新聞を毎日学校に持って行って、365日新聞があるという空間を作るところから地道にやっていきたい。また、修学旅行で台湾に行くので、そこも生徒の関心との媒介になるのではないかと考えている。

・学校内における他教科の先生とのネットワーク、NIEミーティング・全国大会などにおけるネットワークなどをもっと拡げて、授業に還元していきたい。

2、各校種別グループでの話し合い内容

記録者 各グループの横浜国立大学大学院生

1 小学校グループ

◯「高校生より小学生の方が深い学びをしているかもしれない」という報告者の発言について
・小学校の実践で新聞記事を扱うと、高頻度で「すごい」という感想が登場する。
→どうしたらその先にいけるのか、正直わからない。
→今回の報告で配布された生徒の感想も、おなじような課題を抱えているように見える。
→大学生も変わらない。
◯新聞の読み方について
・前にも話したが、子どもたちが新聞を読んで感想を書いたとき、線を引いたりラインマーカーをつけたりしているが、その付け方にどのような意味があるのだろうか。
・今回の報告の高校生もそうだが、記事を要約したりするのはとても上手である。やはりインターネットが生まれたときからある世代だからなのか、大人よりもそういう能力は高いかもしれない。
→しかし並行して、「すごい」としか書かないという課題がある。それは本当の意味で「読めている」と言えるだろうか。
◯授業実践として
・新聞記事の要約を紹介したり、感想を発表してクラスで共有する空間があってほしい。
→ただ「すごいと思った」というだけでなく、なぜすごいと思ったのか、本当にそうなのか、など、掘り下げていけたら尚よい。
→子ども同士だけでなく、先生も「赤ペン」という形で関われると思う。だが、やればやるほど難しいなと感じる。

2 中学校のグループ

○新聞を丸ごと使う
記事だけを切り取ってしまうのでは、新聞を使う意味が半減してしまうと言えるだろう。新聞を丸ごとすべて使うことによって、いろいろな記事を子どもたちは目にすることができる。先生が使いたい記事以外の所で、子どもが興味・関心を広げることがあり、それが新聞を丸ごと使う大きな意味である。
○今、新聞を活用する意義
信頼できる新聞という媒体に今日的な価値がある。ネットの活用が増える中、新聞はその記事に責任を持っている。情報の裏付けがきちんとされている。ネットとの違いは、そこにあると言えるだろう。
信頼できる情報に多く触れることによって、情報を見極めることができるようになり、メディアリテラシーも身についていくのではないだろうか。
○新聞による実践をどのように広げていくか
強制するようにしては逆に広まらない。ただ、置いておく、使うこともできますよとアナウンスしておく、といったようなことを地道に行っていく。そうすることによって、多くの人に手に取ってもらえるようになる。
○NIEを持続させるために
大きな問題は、新聞をどのように確保するのかということである。ほかの先生にも協力してもらって、家庭にある新聞を持ってきてもらうということも手立ての一つである。最初は一人の活動でも、まわりの先生を巻き込み、校内で声を高めていけば、新聞を学校の予算でとってくれるようになるかもしれない。

3 高校グループ

 職場では小学校・中学校のようにまとまりがなく、個人で取り組んでいる。50代と社会科の若手が声をかけてくれる。実践を行ってみて、他の教員に声をかけてもらうなどして、他にも実践されている先生がいることを知った。

Q:年間の計画がある中で、いつ取り組んでいるか?定期試験も共通試験にするように通達が出されている。その辺りはどうか。
・授業計画がわりと大まかで許されているため調整がつく。試験は共通だが、状況によって一部共通にしてそれぞれで作成することもある。また、今年は配慮の必要な生徒が在籍していることもあり、それぞれの違いがあっても許されていて、試験の範囲を確認した後は、授業の内容はそれぞれに任されている。
Q:観点別の試験問題は作られているのですか。
・作っていない。とても大変で作れない。定期試験が終わった後の時間は、自由に使える。3年間その時間を使って積み上げていくことできる。高校入試前後のバタバタした時間も授業時数にカウントしないで、TOEICなどの対策や原書読む時間にあてている。やはり本物はいい。私は英語科だが、原書を使って授業を行っている。生徒の取り組みは良い。アナ雪やハリーポッターなど、ギリシャ神話はいまいちだったけど。慣れてくると夏休みとかを使って1冊読ませる。生徒たちは映画を見てきたりする。あらすじを書かせたり、発表させたり、ロールプレイさせたりしている。
Q:その取り組みは個人で行っているのか。
・学年で共通して取り組んでいる。英作文書かせるとかは、それぞれで行っているが。柔軟なカリキュラムになっているからできる。本校でも社会科の教師は時事問題を出しているので、試験前になると図書室で多くの生徒たちが新聞を広げている。なかなか定着はしてないけど。
Q:学校でネットを活用して、その情報だけを使って文章を完結させてしまってもいい状況なのか。生徒たちは情報を手に入れる方法として、ネットを使っているのか。例えば、ラインニュースだとか、ヤフーだとか。
・2chを見ている。2chにニュースをまとめてくれているサイトがある。
・そうするとやっぱり断片的な情報ですね。丸ごとの情報ではない。
・ネットはある出来事に対して、横に調べることはできるけど、古い情報とか出てこない。そこまで見ようとしない。自分の体験を過去の記事などとつなげることができない。そのため、薄っぺらな理解で終わってしまう。
Q:先ほど小学生の方が深く考えているという発言があったが、小学生の方がいろんな体験をする機会があるからだと思う。高校生は勉強して部活やってという生活をしているから、社会を知る必要がないというか、そういう時間は煩わしいと思ってないか。
・そういう時間があったら受験に必要なことをやりたいと考えているところはある。
Q:丸ごと新聞を渡たす実践をしたときに、「これ何のためにやるの?」と聞いてくる生徒はいなかったか。
・そういう生徒はいた。言いたくないけど、受験の話をしてしまう。AO入試などで必要な力になってくるというような説明をしている。
・AO入試の対策などを3年生から取り組んでいる生徒では、情報が足りない。どうしても浅いところまでしか調べられない。新聞を読む習慣がないと苦しい。
Q:どのように生徒に働きかけていったら、深めてくれるのだろうか。
・試験も共通化の傾向があり、公平性が求められている。その対策をみんなが予備校等で行うため、同じような答え方をしてきてしまう。
・教科主義が崩れていかないとだめなのではないか。一方では共通テスト化、公平化が言われているが。
・人の意見で説得力ある文章はどれだったか。ドキッとした文章はどれだったか。高校生は全体のまえでは発言しない。でも、お互いをつなげてあげられるとよい。よい文章があったとき陰で生徒に声をかけてあげたらいい。相手を傷つけないように気を配って会話しているのが生徒たちの現状である。だからしゃべらない。(しゃべれない。)それくらい個で生きている。そこに新聞があると、それが媒介となって会話ができるようになるといいのでは。
・自分の書いたものに反応がある。大切なこと。ただし、その反応がいつも教師のコメントだけでは足りないのでは。教師はつなげてあげることが大切で、グループで話し合わせるときに設定を変えてみることも必要だ。例えば、共通の話題でグループを作ったり、会話が停滞しているグループには、教師が入ってみたり。
Q:譲れないものを持っていないと話ができない。例えば、「カジノ法案」を取り上げた生徒の文章を見ると、記事の内容を書いているだけで、自分の意見を言っていない。マスコミも本当のところの議論を書かなくなってきている。天皇の退位の問題について、そもそも天皇制に対する議論が昔ならあったはずなのに、いつの間にかその議論は消えてしまった。意見が分かれるような、議論ができる授業はありましたか。
・安楽死をテーマにしたときは、それぞれの立場を考えて議論が行われる授業になった。